大判例

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東京高等裁判所 昭和39年(う)2236号 判決

被告人 高根夘之助

〔抄 録〕

控訴趣意第一点および第二点のうち被告人の責任能力に関する主張について。

論旨は、要するに、原審において弁護人が本件各犯行当時被告人の精神状態が異常であつたことを主張し、その精神鑑定を求めたにも拘らず、原審はこれを却下し、原判決においても右被告人の異常な精神状態を認定していないが、被告人は本件各犯行に当つていずれも飲酒していて、放火についてはその直接の動機を欠いており、傷害については相手方を取り違えて暴行し、脅迫については単に酔余犯行に及んだものであること、被告人の家系中に精神異常者がいて被告人にはその遺伝的負因のあること、および被告人の飲酒していないときにおける態度さえ正常でないことを考慮すると、被告人の本件各犯行当時における責任能力は著しく減弱していたものと認められるから、原審はこの点につき審理を尽さず、事実を誤認したものであつて、その誤認が判決に影響をおよぼすことが明らかであり、原判決は破棄を免れないというのである。

よつて、記録を調査し、当審における事実取調べの結果をも加えて考察すると、原判決が本件各犯行当時いずれも被告人が完全な責任能力者であつたものと認めていることはその判文に徴し明らかであり、被告人の司法警察員および検察官に対する各供述調書によれば、被告人が本件放火および脅迫行為をするについてはいずれも飲酒酩酊していたとはいえそれぞれ原判示どおりの動機、原因があつたものであり、また傷害についても同様飲酒酩酊していて、被害者の同行者に突き飛ばされたのを被害者に突き飛ばされたものと錯覚して同人に暴行を加えたものであることが窺われ、必ずしも被告人が通常首肯し得られるなんらの動機、原因もなくして本件各犯行におよんだものとは云えない。しかし、右各供述調書、被告人、証人高根福松および同高根春三の原審公判における各供述、証人高根福松の当審公判における供述、特に当審における鑑定人医師松本胖の高根夘之助に対する精神状態の鑑定の結果によると、被告人の家系中には大酒家、精神薄弱者、精神病者がかなり多く、被告人にそれらの遺伝的負因の可能性があり、また、被告人が幼時てんかんの発作を起し、精神薄弱、殊に痴愚の常況にあつたうえ、昭和二〇年前後頃から飲酒を始め、昭和三八年頃からは慢性アルコール中毒の状態が顕著となり、病的酩酊が著しくなつていたのであるが、かような状態のもとに、被告人が本件各犯行当時いずれもかなりの量の焼酎等を飲んだため強度の病的酩酊状態となり、そのため興奮状態とある程度の意識溷濁を伴つて衝動的に本件各犯行を惹き起すに至つたことが認められるのであるから、ひつきよう、本件各犯行当時、被告人は理非を弁別し、かつ、これに従つて行動する能力が著しく減弱した状態にあつて、その責任能力が著しく低下していたものというべきである。さすればこの点につき審理を尽さず、被告人を完全責任能力者と認めた原判決には事実の誤認があり、それが判決に影響をおよぼすことが明らかであるから論旨はこの点において理由があり、その余の論旨につき判断を加えるまでもなく原判決は破棄を免れない。

(松本 海部 石渡)

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